新美南吉記念館の本質は、展示棟の内部だけで完結しません。建物の裏手に広がる「童話の森」へ足を踏み出すことで、南吉文学の立体的な追体験が完結します。
童話の森には、自然の雑木林を生かしたウッドチップ敷きの遊歩道が整備されており、歩道沿いには南吉作品の一節が刻まれた文学碑や、木陰に隠れる狐のモニュメントが点在しています。小高い丘の上に立つ「せせらぎの小径」を抜けると、眼下に矢勝川(やかちがわ)の堤防が広がり、南吉がかつて友と語らい、草花を観察した知多半島の原風景をそのまま一望できます。所要約20〜30分の心地よい散策ルートであり、車椅子やベビーカーでも移動しやすいスロープ設計が施されています。
記念館から北へ徒歩数分の場所に位置する矢勝川堤防は、秋になると約300万本とも言われる彼岸花(曼珠沙華)が真紅の絨毯のように咲き誇る、全国有数の景勝地です。童話『ごんぎつね』の中で「赤いまんじゅしゃかが、あぜ道に咲きつづけてゐた」と描写されたあの情景が、約1.5キロメートルにわたって現前します。
2026年のイベント展開においても、例年9月下旬から10月上旬にかけて開催される「ごんの秋まつり」を中心に、南吉作品の朗読劇、野外ライトアップ、直筆資料の特別公開展などが計画されています。彼岸花シーズンは全国から観光バスやツアー客が押し寄せるため、午前8時台の早朝訪問、もしくは閉館間際の夕刻を狙うことで、人混みを避けて幻想的な風景と対峙することが可能です。
また、記念館から南へ約1キロメートルの場所には、南吉の生まれ育った新美南吉生家が復元保存されています。家業であった畳屋の作業場や、小さな中庭、南吉が思索に耽った奥の間を無料で見学でき、記念館と合わせて巡ることで、作家の生涯を追体験する完璧な聖地巡礼が完成します。