「荒川区は治安が悪い」という検索サジェストやネット上の書き込みを目にして、住まい探しを躊躇する人は少なくありません。しかし、客観的な数値を精査すると、この言説は実態から大きく外れていることが分かります。
警視庁の自治体別犯罪認知件数データによると、荒川区の年間刑法犯認知件数は東京23区中、常に少ない方から数えて上位(例年23区中17〜19位前後=犯罪数が少ない側)に位置しています。人口1,000人あたりの犯罪発生率(犯罪率)で見ても、新宿区、渋谷区、豊島区などの大規模繁華街を抱えるエリアより遥かに低水準であり、文京区や杉並区に迫る落ち着きを見せています。
では、なぜ「治安が悪い」というイメージが定着してしまったのでしょうか。その背景には、大きく分けて3つの要因が存在します。
第1に、隣接する台東区・足立区との境界付近における歴史的イメージの混同です。かつての山谷地域(南千住駅の南側・台東区清川や日本堤一帯の簡易宿泊所街)の記憶が「南千住=荒川区=治安不安」という短絡的なレッテル貼りを生んだ経緯があります。第2に、昭和期の下町工場地帯や長屋街が持っていた「雑多で薄暗い路地」という視覚的印象です。そして第3に、後述する水害や密集市街地といった「防災上の脆弱性」が、いつの間にか「治安の悪さ」へとすり替えられて語られてきた側面が見逃せません。
荒川区内の警察署関係者や地域ボランティアの証言によると、荒川区では地域住民による防犯パトロール組織が隅々まで機能しており、住民同士の「目配り」が犯罪抑止に直結しています。都市社会学で言われるジェイン・ジェイコブズの「通りの目」が、日常の長屋文化や下町の対面関係の中に今なお息づいていることが、数字上の平穏さを支えています。