一見グロテスクにすら思える『君の膵臓をたべたい』という言葉は、物語の進行とともにその意味を劇的に変容させます。
序盤においてこの言葉は、昔の迷信である「悪い部位を食べるとその病気が治る」という他愛のない会話として登場します。桜良の病気を治したいという素朴な願いの比喩でした。
しかし、互いの内面を知るにつれ、言葉の意味は「魂の同一化」へと変化します。他者と交わらず自分一人で自己完結できる「僕」の強さに憧れた桜良と、周囲に愛され他者を惹きつける桜良の輝きに憧れた「僕」。2人は互いに「自分にないすべてを持つ相手になりたい」と強く渇望していました。
桜良が亡くなる直前、「僕」がカフェで送信した最後のメールの一文こそが「君の膵臓をたべたい」でした。そして、後に開かれた『共病文庫』の最後のページにも、桜良から「僕」へ向けて全く同じ言葉が遺されていたのです。「愛している」「好きだ」といった既存の言葉では到底括ることのできない、「あなたの爪の垢を煎じて飲むように、あなたの魂を私の中に取り込み、あなたのように生きたい」という究極のリスペクトと愛の結晶がこの言葉に集約されています。