物語のクライマックス、山形での休暇を終えたタエ子は、駅のホームでトシオや農家の人々に見送られ、東京へ戻る列車に乗り込みます。車内で物思いに耽るタエ子の周囲に、突如として小学5年生の自分と同級生たちの幻影が現れます。列車が途中の駅(蔵王駅あるいは山寺駅付近を想起させる停車場)に止まると、タエ子は意を決したように荷物を抱えて飛び降り、公衆電話からトシオの自宅へ電話をかけます。そしてエンディングクレジットの中、迎えに来たトシオの車に乗り込み、少年少女たちの幻影に見守られながら田舎道へと消えていきます。
この象徴的なおもひでぽろぽろのラストの意味を解く鍵は、アメッド・ジャマールのジャズピアノから都はるみが歌う主題歌『愛は花、君はその種子(The Roseの日本語版カバー)』へと移り変わる劇的な音響設計と、小学5年生のタエ子たちの「介入」にあります。
高畑勲監督が生前のインタビューや演出覚書で明かしている通り、この結末は「過去の記憶に囚われてモラトリアムを生きていた27歳のタエ子が、幼き日の自分と和解した瞬間」を描いています。タエ子は劇中、分数計算の挫折、エナメル靴への憧れ、学芸会の端役、そして転校生・阿部くんとの握手拒絶といった、10歳の頃に刻まれた「未解決の心の傷」を何度も反芻していました。
トシオの祖母から「トシオの嫁に来たらどうだ」と突然切り出された際、タエ子はパニックを起こして雨の中を逃げ出しました。それは、自らの「田舎好き」が単なる都会人の勝手な憧れ(消費的な気分転換)に過ぎず、泥臭い生活を引き受ける覚悟がないという偽善性を暴かれたからです。しかし、トシオと夜のドライブで言葉を交わし、阿部くんとの苦い思い出を告白したことで、タエ子の凍りついていた心は初めて解凍されました。
列車を降りた決断は、受動的な流されての行動ではなく、「10歳の自分が背中を押し、27歳の現在の自分が引き受けた自律的な選択」に他なりません。エンディングロールで小学5年生たちがトシオとタエ子の手を繋がせ、大人たちには見えない存在として見届けて去っていく演出は、過去のトラウマが成仏し、タエ子の精神がひとつの統合された主体へと脱皮したことを明確に示しています。