小布施の栗がこれほどまでに特別な存在となった理由は、単なる気候風土の恵みだけではない。江戸時代末期、この地に文化の華を咲かせた豪商であり文人の高井鴻山と、彼の招きに応じて晩年の創作意欲を燃やした浮世絵師・葛飾北斎の存在が、町の精神的支柱となっている。
北斎は小布施に長期滞在し、名作「怒涛図」や岩松院の天井絵「鳳凰図」など、後世に残る傑作を描き上げた。鴻山をはじめとする当時の町衆は、当代一流の芸術家を温かく迎え入れ、最高の食ともてなしで彼らの感性を刺激した。その食文化の中核にあったものこそが、地元の栗だった。
町を歩けば、瓦屋根と白壁の土蔵が美しい家並みを作り出している。栗の木を敷き詰めた「栗の小径」を踏みしめながら歴史の息吹を感じるとき、私たちが口にする一粒の栗菓子には、何百年もの文化と美意識が凝縮されていることに気づかされる。