「処方された通りに飲んでいるのに一向に改善しない」——この悩みに直面した際、薬そのものの薬効を疑う前に検証すべきなのが漢方医学における「証(しょう)」の適合性です。西洋薬が病名に対して画一的に処方されるのに対し、漢方薬は個人の体質やその時の身体バランスに合わせて処方されなければ本来の力を発揮できません。
加味逍遙散が最も適合するのは、体力は中等度以下で、のぼせ感があり、肩がこり、精神不安や苛立ちなどの精神神経症状を伴う、いわゆる「気滞(気の滞り)」と「気逆(気の突き上げ)」、「熱」を帯びた状態です。効果を感じられない背景には、明確な3つのミスマッチが存在します。
第1の理由は、「冷え」が極めて強い虚弱体質への誤処方です。加味逍遙散には熱を冷ます「山梔子(サンシシ)」や「牡丹皮(ボタンピ)」といった生薬が含まれています。そのため、上半身はのぼせているものの下半身が極端に冷えている、あるいは全身が冷え切って血行不良に陥っているタイプが服用すると、かえって体を冷やしてしまい不調が悪化することがあります。この場合は、血を補い体を温める当帰芍薬散との違いを精査し、処方を切り替える必要があります。
第2の理由は、胃腸機能の低下による吸収不全です。加味逍遙散に含まれる「柴胡(サイコ)」や「当帰(トウキ)」は、胃腸がデリケートな人にとって胃もたれや食欲不振、軟便を引き起こす要因になり得ます。胃腸が弱り、薬を十分に消化・吸収できなければ、有効成分の恩恵を受けることはできません。
第3の理由は、環境的ストレスの過負荷による自律神経の損耗です。加味逍遙散は自律神経失調症の改善を力強く後押ししますが、過重労働や家庭内の慢性的な不和、極度の睡眠不足といった根本的な過剰負荷が存在し続ける場合、生薬の調整力をストレス刺激が上回ってしまいます。「薬を飲んでいるから大丈夫」と生活改善を怠ることは、穴の空いたバケツに水を注ぎ続けるような状態を招きます。