「複数人で集まっているのに、なぜか自分だけ集中攻撃される」という日常の理不尽にも、明確な科学の光が当てられている。国立感染症研究所をはじめとする研究機関の分析によれば、蚊が遠方からターゲットを認識する第一の指標は息に含まれる二酸化炭素だが、直前で着地を決定づけるのは皮膚表面から発せられる微細な化学物質のバランスだ。
カギを握るのは、皮膚表面に生息する常在菌の群集構造(マイクロバイオーム)である。常在菌が皮脂や汗成分を分解するプロセスで発生する「カルボン酸」や「乳酸」の特定の組み合わせが、蚊の触覚にある高度な嗅覚受容体を強烈に刺激する。飲酒後の体温上昇や運動直後の高い代謝率は、この化学シグナルを周囲に飛散させるブースターとなる。血液型にまつわる都市伝説を超えて、個人固有の「常在菌と代謝物質の化学プロファイル」こそが、ターゲットに選ばれるか否かの真実だ。