ドラマ『砂の塔〜知りすぎた隣人〜』で佐野勇斗が抜擢されたのは、菅野美穂が演じる主人公・高野亜紀の高校生の長男、高野和樹(たかの かずき)という極めて重厚な役柄でした。物語の舞台となる湾岸エリアの50階建て超高層タワーマンションへ引っ越してきた高野家の中で、和樹は幼い妹のそらを甲斐甲斐しく世話し、母親を気遣う「絵に描いたような優しい優等生の兄」として登場します。しかし物語が進むにつれ、その仮面の下に隠された不穏な顔が徐々に露わになっていきました。
世間を震撼させていた「ハーメルン事件」と呼ばれる連続幼児失踪事件では、現場に必ず黄色いカーネーションが残されるという特徴がありました。劇中において和樹は、家族に隠れて怪しげな廃ビルに出入りし、失踪事件が起きた時刻にアリバイがないなど、不可解な行動を繰り返します。さらに、自室のパソコンで不気味な画像を監視していたり、母親に対して冷淡な視線を投げかけたりする場面が描かれ、視聴者の間では「心優しいお兄ちゃんこそが連続誘拐の実行犯ではないか」という強い疑惑が渦巻くことになりました。
この疑惑に拍車をかけたのが、タワマンの最上階近くに住む謎の隣人・佐久間弓子(松嶋菜々子)の存在です。弓子は高野家の内情を監視カメラで覗き見し、巧みに和樹へ接触。実は、和樹は亜紀の本当の息子ではなく、弓子が過去に産んだ実の息子であるという衝撃的な血縁関係が明かされます。実母である弓子のマインドコントロールと、育ての母である亜紀への不信感の間で激しく揺れ動く和樹の孤独な葛藤は、視聴者のミスリードを誘う最大のフックとして機能しました。