日本の秋を彩ってきた音景(サウンドスケープ)はいま、地球規模の環境変化によって大きな転換点を迎えている。平年の気温上昇と夏期の長期化により、野外における鈴虫の発生サイクルにズレが生じ始めているのだ。
昆虫生態学者らの観測によると、かつて8月下旬から9月にかけてピークを迎えていた鳴き始めの時期が、猛暑の影響で10月近くまでずれ込むケースが都市近郊で報告されている。鈴虫の卵は一定期間の冬の低温を経験した後に春の温暖化で孵化するが、冬の短縮と夏の極端な熱波が幼虫の成長速度や成虫の寿命に無視できないストレスを与えているという。
草むらの減少や外来種の圧迫も重なり、野生の鈴虫の密度は昭和の時代と比べて激減した。夜風に乗って当たり前に聞こえていたコーラスは、意識して保全しなければ失われてしまう貴重な環境資源になりつつある。