パックに同封されている小袋のタレや汎用ポン酢をそのまま使った際、どことなく「水っぽさ」や「後味に残る鉄臭さ」を覚えた経験は少なくないはずです。これには明確な食品科学的理由が存在します。
全国流通を前提とした市販のポン酢は、鍋料理やサラダなど多用途に対応するため、糖度(Brix)が約15〜18%、塩分濃度が約7〜8%前後に設定されており、柑橘の酸味も角が立たないよう穏やかに調整されています。しかし、かつおのたたきは皮目を強火で炙ることで脂がにじみ出ているうえ、身には特有の血合い(ミオグロビンや鉄分)が多く含まれています。この濃厚な赤身肉に対してマイルドすぎるタレを合わせると、脂の皮膜に酸味が弾かれ、口の中に生臭さの余韻だけが残ってしまうのです。
高知現地の名店で供されるタレを分析すると、醤油の旨味成分(全窒素分)が高く、そこに加える柑橘果汁(ユズや直七、スダチ)の滴定酸度が極めてシャープに効いていることが分かります。酸味が脂の重さを瞬時に断ち切り、強い醤油のコクがカツオのイノシン酸と結合して爆発的な旨味へと昇華する仕組みです。つまり、市販品をそのままかけるだけでは、かつおのポテンシャルを半分も引き出せていないのが実態です。