へそのごまを巡っては、インターネット上で極端な二極論が長年放置されてきた。「子どもの頃の言いつけを守って一切触らない」という完全放置派と、「においが許せないから毎日入浴時に洗剤でほじくる」という過剰洗浄派である。しかし、皮膚科医や形成外科医の見解は、このどちらも明確に「NG」と断じる。
まず「完全放置」の危険性について検証しよう。おへその形状が深く窪んでいる人や、肥満傾向でへその開口部が閉じている人の場合、数年から十数年にわたって垢が蓄積し続けることがある。水分が蒸発して硬化した老廃物は石のように硬くなり、臨床現場では「臍石(さいせき)」と呼ばれる状態に進行する。臍石が皮膚の奥深くで圧迫を続けると、潰瘍を形成したり、深部感染を引き起こして腹壁膿瘍や腹膜炎といった重症病態へ進展した症例が日本国内の学術誌でも多数報告されている。「触らぬ神に祟りなし」と決め込み、一生放置することは決して安全策ではない。
一方で、現代人に急増しているのが「過剰洗浄」による皮膚トラブルである。市販の殺菌ソープで毎日ゴシゴシ擦ったり、アルコール消毒液を綿棒に浸して奥まで突き刺したりする行為は、皮膚の最外層にある角質層(厚さわずか0.02ミリ)をズタズタに破壊する。角質層が削り取られると、外部の刺激から肌を守る皮膚バリアが失われ、黄色ブドウ球菌などの侵入を許してしまう。結果として、においを消そうとする過剰なケアそのものが、悪臭を伴う臍炎を誘発するという本末転倒な事態に陥るのである。