「一瞬で完治する」という話は誇張であるものの、塩水を用いたうがいが医療現場でも補助療法として認められているのは事実です。そこには、生化学に基づいた「浸透圧メカニズム」による物理的な消炎作用が存在します。
ウイルス感染や乾燥によって喉の粘膜上皮が損傷すると、生体防御反応として毛細血管が拡張し、血管内から血漿成分が組織間隙へと大量に染み出します。これが喉の「腫れ(浮腫)」の正体です。腫れ上がった細胞組織は神経を物理的に圧迫し、つばを飲み込むだけでも刺すような激痛を生み出します。
ここで適切な濃度の塩水を接触させると、半透膜である細胞膜を介して、濃度の低い細胞内から濃度の高い塩水側へと水分が移動します。この物理的な水分引き抜き効果により、パンパンに膨張していた粘膜細胞の体積が減少し、痛覚受容体への物理的圧迫が解除されるため、確かな除痛効果が得られるのです。
さらに重要なのが、気道粘膜に備わっている「微細なゴミやウイルスを体外へ排泄するベルトコンベア=繊毛運動(せんもううんどう)」の保護です。真水(水道水)でうがいをすると、細胞との浸透圧差が大きすぎて細胞が浸透圧ショックで膨張し、繊毛運動が一時的に麻痺してしまいます。一方、体液とほぼ等しい「0.9%の生理食塩水」を用いた場合、繊毛の機能を阻害することなく、表面に付着した膿や粘液、ウイルス粒子を安全に洗い流すことが可能です。つまり、塩水うがいの真の価値は「殺菌」ではなく、「物理的な排泄の促進と浮腫の緩和」にあると言えます。