多くの人が「魔女の宅急便のために書き下ろされた楽曲」と誤解していますが、実は誕生秘話と背景を辿るとまったく異なる文脈から生まれています。1974年当時、この楽曲は不二家「ソフトエクレア」のCMソングとして依頼を受けたものでした。テレビCMのタイアップとして制作されたシングルバージョンは、アコースティックギターとバンジョーを配した軽快なカントリー調のアレンジが施されていました。
その後、同年10月にリリースされた荒井由実のセカンドアルバム『MISSLIM(ミスリム)』に収録される際、松任谷正隆の手によって大幅なリアレンジが施されます。12弦アコースティックギターの煌びやかな響きと、包容力のあるエレクトリックピアノのバッキングが加わったこの「アルバムバージョン」こそが、のちにスタジオジブリ映画で採用される音源となります。
そして1989年、スタジオジブリの長編アニメーション映画『魔女の宅急便』の制作過程において、運命的な邂逅を果たします。当時、思春期の少女の自立と葛藤を描くにあたり、宮崎駿監督とプロデューサーの鈴木敏夫氏は、映画の世界観を象徴する音楽を探求していました。制作現場の証言や当時の対談記録によると、宮崎監督は「1980年代末の流行歌ではなく、普遍的でみずみずしい少女の心象風景を描いた音楽」を求めていたとされています。
そこで白羽の矢が立ったのが、荒井由実の初期作品でした。オープニングには都会への旅立ちを予感させる『ルージュの伝言』が、そしてエンディングには主人公・キキの精神的成長と挫折からの再生を優しく肯定する『やさしさに包まれたなら』が選ばれました。15年の歳月を経て映画の物語と奇跡的な親和性を見せたこのジブリ楽曲の経緯は、日本のアニメーション音楽史における最大の成功例の一つとして語り継がれています。