ソーシャルメディアや匿名掲示板、闘病ブログなどに投稿される天国のお花畑の体験談を分析すると、そこには画一的ではないリアルな人間の苦悩と安堵が交錯しています。現代の天国のお花畑に関するネットの反応は、大きく3つの言説潮流に分類できます。
第1は、重篤な事故や急性心筋梗塞から生還した当事者の「圧倒的な救済体験」です。「痛くて苦しくてたまらなかったのに、突然ふわりと浮き上がり、足元が見渡す限りの菜の花のような黄色と淡い紫の花畑になった。温かくて何の心配もない場所だった」「亡くなった祖母が向こうから『まだ来るんじゃない』と押し戻してくれた」という類の記述です。これらの生々しい告白は、死に対する原初的な恐怖を和らげる効果を持ち、閲覧者からも「死ぬのが怖くなくなった」「看取った親もあんな安らかな場所にいるなら救われる」といった共感の反響が多数寄せられます。
一方で第2の潮流として、一部の宗教的言説やスピリチュアル界隈における「偽物の天国」論争が存在します。「臨死体験で見せられる花畑は、悪霊や低級霊が仕組んだトラップ(芝居)であり、本物の天国は聖なる光に満ちた都である」「甘美な花畑に誘惑されて引き返せなくなると地獄に落ちる」といった極端な言説です。死の恐怖を煽ることで特定の信仰や教義へ誘導する古典的な手法ですが、ネット上ではこうした超常的解釈と科学的解釈が日々衝突を繰り返しています。
そして第3の潮流は、現実逃避としての自然美への希求です。近年、大分県竹田市の久住高原に広がる「くじゅう花公園」(標高850m、敷地面積約225,000㎡)の『春彩の畑』や、初夏に一面を青に染め上げるネモフィラ、ポピーの絨毯を訪れた人々が、「本気で天国に迷い込んだかと思った」「まるで臨死体験で語られるお花畑そのもの」とSNSで発信する現象が定着しています。人工的な情報過多とストレスに晒される現代人が、雄大な自然界の花畑に「疑似的な天国」を見出し、現世にいながらにして精神的な癒やしを得ようとする行動心理の表れと言えるでしょう。