時代劇の定番シーンとして誰もが思い浮かべるのが、身分の高い殿様や将軍が発する「近う寄れ、苦しゅうない」という名台詞です。このシチュエーションには、当時の身分制度と作法が深く関わっています。
封建社会において、家臣が主君に無断で近寄ることは無礼であり、場合によっては暗殺の危険を警戒される重罪でした。そのため、家臣は常に主君から遠く離れた場所で平伏し、強い緊張を強いられていたのです。
そこで主君の側から「近くへ参れ。無礼などと咎めはしないから、遠慮しなくてよい」と声をかけて安心させたのが、まさにこの言葉でした。つまり、主君が自らの権威を振りかざすためではなく、萎縮する家臣の心理的負担を取り除くための配慮の言葉だったわけです。