1990年代前半、実兄である若乃花(若花田)とともに巻き起こした「若貴ブーム」は、スポーツの枠を超えた社会現象でした。本場所のチケットはプラチナ化し、巡業先には数千人のファンが押し寄せ、連日ワイドショーを賑わせる異常事態が続きました。
しかし、本人の胸中は決して華やかなだけではありませんでした。同期入門であり、204cmの巨躯と強烈な突き押しを誇る曙太郎(第64代横綱)の存在です。1993年初場所後に曙が外国出身力士として初の横綱昇進を果たした際、貴乃花は悔しさのあまり宿舎で人目をはばからず涙を流したと伝えられています。
生涯対戦成績は貴乃花の25勝、曙の21勝(本割)とほぼ互角。200kgを超える巨体で迫る曙に対し、貴乃花は強靭な下半身と抜群の体幹による右四つの型で真っ向勝負を挑み続けました。逃げや変化を一切排した両雄の激闘は、平成相撲史における最大のハイライトとして今なお語り継がれています。