家族がチェーンストークス呼吸を目の当たりにした際、最も心を痛めるのが「息が止まったり激しく息を吸ったりして、本人は激痛や窒息感で苦しんでいるのではないか」という不安です。ネット上の相談コミュニティや知恵袋でも、この恐怖からパニックに陥る家族の声が多く散見されます。
しかし、緩和医学の確立された知見において、この認識は「医学的な誤解」であることが明らかになっています。終末期にチェーンストークス呼吸が現れている時点では、血中の高二酸化炭素血症や代謝産物の蓄積により、患者の脳内では自然な麻酔作用(炭酸ガスナルコーシスに近い状態や脳内エンドルフィンの分泌)が働いています。そのため、本人の意識レベルは深く沈んでおり、息苦しさ(呼吸困難感)や苦痛を自覚していないことがほとんどです。
苦痛を感じていない患者に対して、苦しそうに見えるからと安易に強い気道吸引を行ったり、高流量の酸素マスクを無理に装着することは、かえって患者の安らかな時間を乱す身体的侵襲になりかねません。客観的な苦痛評価スケール(フェイススケールや呼吸補助筋の使用状況)に基づき、見守る側が正しい知識を持つことが不可欠です。