多くの人が抱く「肺そのものが痛んでいる」という認識には、解剖学的な盲点が存在します。実は、肺の実質(肺胞など)や肺を直接包む臓側胸膜には痛覚神経(侵害受容器)が存在しません。そのため、初期の肺がんや軽度の肺炎では痛みを自覚しないケースが大半です。私たちが「肺が痛い」と認識する痛みの正体は、胸郭の内側を覆う壁側胸膜、肋骨の間を走る肋間神経、あるいは胸部周囲の筋肉や骨格が刺激を受けて生じています。
なかでも肺が痛い、息を吸うと痛む理由として最も頻度の高い病態が「胸膜痛(Pleuritic pain)」です。息を吸い込む際、胸郭が大きく広がることで壁側胸膜と臓側胸膜が摩擦を起こしたり、胸壁が伸展されたりします。このとき、胸膜に炎症や破損があると、鋭く刺すような痛みが吸気時に増悪します。
痛む部位が左右のどちらにあるかも、原因を絞り込む重要な手掛かりです。
- 肺の痛みにおける右側の原因:右側の自然気胸、右肺の胸膜炎や肺炎のほか、横隔膜を介して胆嚢炎や肝炎などの消化器系疾患が関連痛として右前胸部や右背部に痛みを放散させることがあります。
- 肺の痛みにおける左側の原因:左側の気胸や胸膜炎に加え、狭心症や心筋梗塞、急性大動脈解離といった虚血性心疾患が左前胸部から左肩、顎、左腕へと放散する痛みを引き起こすケースがあり、緊急性が極めて高くなります。