漆の木に触れることで生じる皮膚炎は、一般的な刺激性毒物による化学熱傷ではなく、生体の免疫システムが過剰に反応する「遅延型(IV型)アレルギー性接触皮膚炎」です。この強烈なアレルギー反応の元凶となっているのが、ウルシの樹液に含まれる主成分「ウルシオール(Urushiol)」です。
ウルシオールは油分を多く含むカテコール誘導体の混合物で、植物体内では乳白色から褐色の漆の木 樹液として蓄えられています。この成分の特異な点は、皮膚の角質層を構成するタンパク質と極めて結合しやすい性質を持っていることです。ウルシオールが皮膚に付着すると、わずか10〜15分程度で表皮組織と強固に結合し、生体の免疫担当細胞(T細胞)がこれを「異物」と認識して攻撃指令を出します。
そのため、触れた瞬間に痛みや痒みが生じることはほとんどありません。接触から約24時間から48時間の潜伏期間を経て、皮膚の赤み(紅斑)、激しい痒み、腫れ、そして無数の小水疱が急激に出現します。重症化すると病変部から浸出液がにじみ出て広範囲に腫れ上がり、夜も眠れないほどの激痛と掻痒感に苛まれることになります。
注意すべきは、ウルシオールに対するアレルギー感受性には個人差があるものの、「自分は漆に強いから大丈夫」という過信は医学的に極めて危険だという事実です。初回接触で感作が成立すると、2回目以降の接触ではより微量で、より早く、より重篤な症状が引き起こされます。日本人のおよそ70%以上がウルシオールに対してアレルギー感作を持つとされており、野山に入る以上、誰もが無関係ではいられません。