伝説の歌手ちあきなおみの夫であり、元俳優の郷鍈治が息を引き取ったのは1992年9月のことだ。死因は肺がん。病状が判明した時にはすでに病魔が全身を蝕んでおり、判明からわずか数ヶ月というあまりにも早い旅立ちだった。享年55。あまりにも早すぎる死だった。
病床の夫を昼夜問わず看病し続けたちあきなおみにとって、その別れは人生の光を失うに等しい出来事だった。告別式で棺にしがみつき、「私も一緒に連れて行って」と泣き崩れた彼女の姿は、当時の参列者の記憶に深く焼き付いている。夫の死後、彼女は一切の芸能活動を休止。レコード会社との契約も解除し、完全な隠遁生活へと入っていった。最愛の存在を失った喪失感は、彼女から歌う理由そのものを奪い去ってしまったのだ。