デニムのメンテナンスを巡っては、インターネット上で長年まことしやかに語り継がれているいくつかの「神話」が存在します。しかし、繊維科学と染色の見地から検証すると、その多くには致命的な誤解が含まれています。
第1の誤解は、「ジーンズは洗わないのが至高のエイジングを生む」という極論です。確かに未洗いのまま長期間穿き続ければ、摩擦の激しい部分だけが白く抜けて極端なコントラストが生まれます。しかし前述の通り、繊維に染み込んだ皮脂汚れや塩分は綿糸の弾力を奪い、繊維を内部から腐食させます。さらに雑菌が繁殖して悪臭を放つだけでなく、衛生面でも大きな問題を孕んでいます。本物の美しいエイジングとは、清潔な状態で適度に洗濯され、藍色のグラデーションが自然に現れた状態を指します。
第2の誤解は、「塩水やお酢に浸けるとインディゴの色止めができる」という家庭の裏技です。食塩や酢酸による色止め効果は、主に塩基性染料や直接染料などの特定の化学染料に対して有効な手法です。しかし、デニムに使われるインディゴは「建染め(バット)染料」であり、糸の芯まで染まらず表面に物理的に引っかかっている(中白構造)特殊な状態にあります。塩水や酢に浸してもインディゴ分子と綿繊維の結合が強固になるわけではなく、かえって過剰な酸や塩分が金属リベットやファスナーを錆びさせたり、生地を傷めたりするリスクのほうが勝ります。
また、デニム専用洗剤の代用として中性洗剤(エマールやアクロン)を使う手法についても注意が必要です。これらのおしゃれ着洗剤は蛍光増白剤が含まれていないため、急場しのぎの色落ち防止としては機能します。しかし、ウールやシルクの縮みを防ぐために界面活性剤の配合量が控えめに設定されており、デニム特有の頑固な皮脂汚れや油分を分解する力は専用洗剤に比べて劣ります。結果として汚れが繊維に残り、酸化して生地を痛める原因になり得るのです。