しかし、当時の技術においてカセットテープのホームデモを完成音源へと昇華させる作業は、困難の連続でした。録音テープには激しいヒスノイズやピアノのペダル音、さらには部屋の環境音まで混入しており、ジョンの歌声とピアノを完全に分離することは当時のアナログ機材では不可能に近かったからです。
ここで決定的な手腕を発揮したのが、プロデューサーを務めたジェフ・リン(エレクトリック・ライト・オーケストラ)でした。ジェフ・リンはジョンの声のピッチ(音程)揺れを精密に補正し、ノイズゲートとEQ処理を極限まで追い込むことで、ジョンのボーカルに輪郭を与えました。さらにリンゴの力強いドラムスとポールのメロディックなベースラインを重ねることで、重厚なビートルズ・サウンドの土台を構築したのです。
そして楽曲の白眉となったのが、ジョージ・ハリスンが奏でるスライドギターのソロです。先行シングルとなった『Free as a Bird(フリー・アズ・ア・バード)』の幻想的なアプローチとは対照的に、『Real Love』でのジョージは、イントロのアコースティックギターのストロークからサビ裏のオブリガート、そして間奏に至るまで、極めて繊細かつ叙情的なフレーズを紡ぎ出しました。ジョージ特有の泣きのスライドギターが鳴り響いた瞬間、それは紛れもない「ビートルズのロック・ナンバー」として完成したのです。