結論から明かすと、名言として人口に膾炙している「わしらには救えぬものじゃ」の元ネタは、特定の映画脚本に書かれた一言一句違わぬオリジナル台詞ではありません。多くの読者が記憶の引き出しを探るとき、高確率で結びつけられるのがスタジオジブリが誇る不朽の国民的アニメーション映画――1997年公開の『もののけ姫』、あるいは1984年公開の『風の谷のナウシカ』です。
「一体誰のセリフなのか」という問いに対して、ネット上で最も有力視されてきたのは『もののけ姫』に登場するエミシの村の巫女、ヒイ様でした。タタリ神から右腕に致命的な呪いを受けた主人公・アシタカを前に、石占いを行って運命を告げる人物です。映画を鑑賞した観客の多くが「ヒイ様がアシタカに対して、村の呪術ではどうにもできないと告げた台詞」としてこの言葉を脳内に焼き付けています。
しかし、制作元であるスタジオジブリの公式脚本全集や徳間書店発行の『ロマンアルバム』、さらには宮崎駿監督による『スタジオジブリ絵コンテ全集11 もののけ姫』をつぶさに点検しても、「わしらには救えぬものじゃ」という文字列は一度たりとも登場しません。ネット社会が作品の重苦しい空気を抽出し、短く切れ味の鋭いフレーズへと無意識に要約してしまったことが、この言葉を取り巻く真相です。