伝統芸能の世界では、役者の身体的特徴や家族の病歴を公にせず、秘匿することが長年の不文律とされてきた側面があります。そうした旧弊が存在する歌舞伎界において、中村獅童さんがテレビのドキュメンタリー密着特番や記者会見を通じて、次男の症状と手術をありのままに公表した決断は、極めて異例かつ画期的な出来事でした。
獅童さんが公表を決意した背景には、明確な2つの強い信念が存在します。
第1に、「子供に後ろめたい思いを一切させず、堂々と胸を張って生きてほしい」という親としての願いです。歌舞伎の舞台に立てば、手元や足元は客席から至近距離で見られます。後から周囲に詮索されたり隠し立てしたりするのではなく、最初からありのままの姿を社会に示し、芸と生き様で勝負できる環境を整えてあげたいという親心がありました。
第2に、「同じように先天的な病気や身体的特徴を持つ子供、そしてその親御さんたちに勇気と希望を届けたい」という社会的な責任感です。公表当時、獅童さんはインタビューで「隠すことではない。ありのままの姿で舞台に立ち、元気に走り回る姿を見せることが、同じ境遇にある人々の支えになるはずだ」と語っています。この真摯な姿勢は、当事者家族や医療従事者から称賛と共感を集めました。