『無職転生』の世界観を決定づけた立役者が、原作小説のイラストを担当したシロタカ氏です。シロタカ氏が創り出したビジュアルの特徴は、厚塗りを基調とした絵画的な質感と、光と影(陰影)の巧みなコントロールにあります。アニメ調のフラットな彩色とは異なり、中世ヨーロッパの古典絵画を思わせる空気遠近法や質感描写が、理不尽な孫の手氏の描く泥臭くも切実な人間賛歌に見事なリアリティを与えました。
原作者の理不尽な孫の手氏も過去のインタビューやあとがき等で、シロタカ氏が提示するキャラクターデザインや背景の重厚さに対して絶大な信頼を寄せていたことを明かしています。キャラクターの美しさだけでなく、年齢を重ねるごとに刻まれる皺や表情の翳り、世界各地の土着文化を感じさせる衣装デザインの構築は、シロタカ氏の卓越したデザイン設計による功績と言えます。
一方、コミカライズを担当するフジカワユカ氏による漫画版の表紙も、小説版とは異なる独自のアプローチで高い評価を獲得しています。コミックスの表紙では、キャラクターたちの感情の爆発やダイナミックなアクション、人間関係の距離感が前面に押し出されています。小説版が「歴史を記録する肖像画」であるならば、漫画版は「一瞬の感情を切り取ったドラマチックな名場面」として機能しており、メディアごとの特性を見事に活かした棲み分けがなされています。