なぜチューリップには、これほどまでに愛と絶望が表裏一体となった花言葉がつけられたのでしょうか。その起源を紐解くと、16世紀のオランダに伝わる有名な悲劇の伝説に行き着きます。
ある村に、誰もが見惚れる美しい少女が住んでいました。彼女のもとに、3人の勇敢な騎士が同時に求婚に訪れます。騎士たちは己の誇りと富を証明するため、それぞれ家宝を持参して少女に捧げました。
- 第1の騎士:富と権力の象徴である「王冠」を贈った
- 第2の騎士:武力と強さの象徴である「剣」を贈った
- 第3の騎士:財産と繁栄の象徴である「黄金」を贈った
心優しい少女は深く悩みました。誰か1人を選べば、残る2人のプライドを激しく傷つけ、騎士同士の凄惨な争いへと発展してしまう。争いを望まない彼女は苦悩の末、花の女神フローラに「どうか私を誰も傷つけない姿に変えてください」と懇願します。女神はその純粋な願いを聞き入れ、少女を一本の美しい花へと姿を変えました。
花が「王冠」となり、葉が「剣」となり、球根が「黄金」となった花――それがチューリップです。
争いを避けるために自らの命と愛を犠牲にした少女の伝承は、チューリップに「博愛」「思いやり」という美徳をもたらしたと同時に、「決して誰も選べない」「愛の成就の断念」という悲哀の影を落としました。19世紀のヴィクトリア朝英国で確立された花言葉の体系(セラン)において、黄色や白に不吉な意味が割り振られたのも、この「愛の悲劇性」という土壌があったからにほかなりません。