従来の敬遠と申告敬遠の最も決定的な違いは、「投球動作そのものの有無」に集約されます。昭和から平成にかけての野球中継で見慣れた光景――捕手が立ち上がり、投手が外角高めにふわりとしたボール球を慎重に4球投げるシーンは、申告敬遠の登場によって球場からほぼ姿を消しました。
公式記録における投球数の扱いは、現場の投手運用に大きな影響を与えています。申告敬遠が宣告された場合、投手の「投球数(ピッチカウント)」には1球も加算されません(0球扱い)。ただし、試合記録としては通常どおり「対戦打者数1」「与四球1」が記録され、打者側にも「打数には含めず、四球1、出塁率計算の対象」として正確に処理されます。
戦術面において最も革新的な変化をもたらしたのが、暴投(ワイルドピッチ)や捕逸(パスボール)といったリスクの完全排除です。過去のプロ野球史を振り返れば、敬遠球がすっぽ抜けてバックネットへ転がり三塁走者が生還してサヨナラ負けを喫した悲劇や、1999年に阪神タイガースの新庄剛志選手が読売ジャイアンツの槙原寛己投手の敬遠球を強振してサヨナラ安打を放った伝説的シーンなど、数々のドラマが「ボールを投げる」という行為から生まれていました。申告敬遠は、そうした人為的ミスや奇跡が入り込む余地を完全に遮断したのです。