調理の現場において、海老の下ごしらえで髭を切り落とす理由には明確な3つの物理的・衛生的な根拠が存在します。
第1の理由は、加熱調理時の炭化(焦げ)の防止です。髭は非常に細く水分含有量が少ないため、塩焼きや天ぷら、フライなどで高熱に晒されると一瞬で炭化します。焦げた髭は料理全体に不快な苦味と焦げ臭を移し、素材本来の甘みを損なう原因になります。
第2の理由は、口当たり(テクスチャー)と安全性の確保です。加熱された髭は硬く筋張り、喉や歯茎に刺さる恐れがあります。また、髭の根元付近は汚れや海中の微粒子が溜まりやすいため、ハサミで切り落とすことで雑菌混入のリスクを排除できます。
第3の理由は、盛り付けの美観です。四方八方に乱雑に広がった髭を切り揃えることで、皿全体の端正な佇まいが完成します。
ただし、海老の髭を食べる調理法も存在します。殻ごと柔らかく揚げられる「川海老の唐揚げ」や「脱皮直後のソフトシェルシュリンプ」であれば、油でパリパリに揚げることで芳ばしいカルシウム源として美味しく味わうことが可能です。
刺身や姿造りに仕立てる場合は、鮮度と躍動感を強調するためにあえて髭を残す技法が取られます。その際は、冷水や日本酒で髭の表面を優しく洗い、清潔なキッチンペーパーで水気を完璧に拭き取る作業が欠かせません。