『Lose Yourself』を語る上で欠かせないのが、エミネム自身が主演を務めた2002年公開の映画『8 Mile』です。デトロイトの貧困層が暮らすトレーラーハウスを舞台に、白人青年「B-ラビット」が黒人文化の牙城であるラップバトルシーンへ単身乗り込み、自らの才能とマイク一本で這い上がっていく姿を描いた半自伝的作品でした。
映画の過酷な撮影スケジュールの中、エミネムは移動用のトレーラーに録音機材を持ち込み、撮影の合間にこの楽曲のリリックを一気に書き殴ったと伝えられています。劇中の主人公ラビットの葛藤と、エミネム本人がくぐり抜けてきた生々しい実体験が見事にリンクしたことで、類を見ない切迫感が楽曲全体に宿りました。
その結果、2003年の第75回アカデミー賞において、ヒップホップ楽曲として史上初となるアカデミー賞歌曲賞を受賞するという歴史的快挙を成し遂げます。授賞式当日、受賞の可能性を信じていなかったエミネム本人は授賞式を欠席し、自宅で娘とアニメを見て寝ていたという逸話もまた、彼の孤高のカリスマ性を物語るエピソードとして語り継がれています。