フェラーリをはじめとするスーパーカーで火災事故が多発する最大の工学的要因は、ミッドシップレイアウトにおける熱マネジメントの極端な難しさにあります。一般的なフロントエンジン車であれば、走行風がエンジンルーム内を効率的に通過し、床下へと熱を逃がす設計が容易です。しかし、ドライバーの背後に大排気量V8またはV12エンジンを配置するミッドシップ構造では、限られたタイトなスペースに超高熱源が閉じ込められる形になります。
高回転型エンジンのエキゾーストマニホールド(排気管)は、高負荷走行時には800℃から900℃を超える赤熱状態に達します。この超高熱源の直近に、燃料ライン、高圧オイル配管、エアコン配管、各種センサー類のハーネスが所狭しと密集しています。走行中はエアインテークから導入される外気によってある程度の冷却が保たれますが、高速走行直後に渋滞へ突入した際や停止時には「ヒートソーク(走行停止後の熱こもり現象)」が発生し、エンジンコンパートメント内部の温度が一気に跳ね上がります。
この極度の熱環境下で、わずか数滴の燃料漏れやパワーステアリングフルードの滲み、あるいは耐熱シールドの脱落が生じると、気化したオイルやガソリン蒸気が赤熱した排気系に触れた瞬間に引火します。これが「スーパーカーが自然発火した」と目撃者に錯覚させる、熱害起因の火災メカニズムの本質です。