京都や東京の老舗料亭で働く仲居や支配人への取材によると、来店客の立ち居振る舞いにおいて最も現場が気をもむのは、実は「箸の持ち方の巧拙」よりも「空間や道具への敬意が欠けている行為」だといいます。
老舗料亭の関係者は次のように証言します。「お客様が緊張して料理を召し上がる手順を少し間違えても、私どもが不快に思うことは一切ございません。しかし、貴重な輪島塗のお椀を引きずって畳や白木のカウンターを擦ったり、大きな指輪や腕時計をした手で人間国宝の焼き物に触れてカチャカチャと音を立てたりされると、器の破損リスクに胸が締め付けられます」。
SNSや知恵袋などのコミュニティを検証しても、「接待で良かれと思って手皿を連発していたら上司から後で指摘された」「結婚前の両家顔合わせで、椀の蓋を裏返して置いてしまい、相手方の親御さんの視線が気まずかった」といった実体験が多数寄せられています。
料亭でのマナーと立ち居振る舞いにおいて、玄関から個室に入るまでの間にも重要なチェックポイントが存在します。
- 靴の脱ぎ方:部屋に上がる際、正面を向いたまま靴を脱いで上がり、上がってから膝をついて靴の向きを外(玄関側)へ直して端に寄せます。最初から後ろ向きに靴を脱ぐのは「お尻を向ける」無作法とされます。
- 畳の縁や敷居を踏まない:敷居は「家」の象徴であり、畳の縁(へり)には家紋が織り込まれていたり、植物染料の繊細な布が使われていたりします。痛みを防ぎ、境界線を大切にする文化から、縁や敷居は絶対に踏まずにまたいで歩きます。
- 襖(ふすま)の開閉:立ったまま足で開けたり、勢いよく開け閉めしたりせず、正座して両手を引き手に添え、静かに開閉するのが作法です。