脳がボリュームを上げすぎているのであれば、その感度を自然に下げさせればよい――。この発想から生まれたアプローチが、現在広く認知されている耳鳴りTRT音響療法(Tinnitus Retraining Therapy:耳鳴り再訓練療法)です。
TRTの根底にあるのは「順応(ハビチュエーション)」という神経科学の原理です。例えば、冷蔵庫の作動音や時計の秒針の音は、普段生活しているときには意識から完全に消えています。脳が「生存に無害な音」と判断して情報処理をカットしているためです。TRTでは、カウンセリングと音響機器を組み合わせ、耳鳴りをこの「無害な背景音」の領域へと押し戻す訓練を行います。
そこで活用される代表的な手段が耳鳴りホワイトノイズ治療法です。耳鳴りよりわずかに小さいホワイトノイズや環境音を日常的に流し続けることで、耳鳴りと周囲の静寂とのコントラストを薄め、脳が過敏に音を拾い上げる警戒態勢を解いていきます。就寝時やデスクワーク中に雨の音やせせらぎの音を流すだけでも、脳の緊張緩和に極めて有効な一手となります。
また、臨床現場で目覚ましい成果を上げているのが耳鳴り補聴器効果と評判の高さです。難聴を伴う耳鳴りの場合、補聴器によって外からの音を脳へ正しく届けてあげるだけで、脳は「音を探そう」としてボリュームを上げる必要がなくなります。結果として、補聴器を装用した瞬間に長年苦しんできた耳鳴りがフッと遠のくケースが珍しくありません。「難聴の自覚が薄い初期段階」であっても、専門医の指導のもとで適切にフィッティングされた補聴器を導入することで、劇的な改善を実感する声が相次いでいます。