「なぜ、割れない鏡は歪んで見えてしまうのか?」――この疑問を解き明かす鍵は、光の正反射を司る「平面平滑性」にあります。
光は、鏡面に対して入射角と同じ角度で反射します。ガラスミラーの場合、硬質なガラス板そのものが自立した平滑面を形成しているため、壁の凹凸に引っ張られることはありません。しかし、アクリルミラーや薄手の樹脂製ミラーは柔軟性が高すぎるため、取り付ける壁面側のわずかな歪み(壁紙の継ぎ目、石膏ボードのたわみ、ピンや両面テープのわずかな厚み差)に追従してしまいます。
たとえわずか0.5mmの反りであっても、数メートル離れた位置から反射像を確認した際には、光の進路が大きく狂い、人間の目には「グニャリと曲がった不気味な像」として認識されてしまうのです。これが、貼るタイプのアクリルミラーをDIYしたユーザーが最も陥りやすい失敗です。
一方、フィルムミラーにおいて歪みが発生するメカニズムは異なります。フィルムミラーは、アルミフレームの四辺に対して均一なテンション(張力)をかけて太鼓の皮のように中空張りされています。したがって、フレーム自体がねじれたり、立て掛けた際にフレームの一角に偏った荷重がかかると、テンションバランスが崩れてフィルム表面に微細な波打ちが生じます。
つまり、フィルムミラーを床に斜めに立て掛けて使っている場合、自重によるフレームの微少な歪みが像の歪みへと直結します。鏡の真価を発揮させるためには、壁面にピタリと垂直に固定する、あるいは専用の水平スタンドを用いることが光学的に絶対の条件となります。