東長崎での閉店により多くのファンが喪失感に包まれる中、マスターは料理人としての灯を消しませんでした。閉店から約半年後の2014年11月、埼玉県比企郡鳩山町にて「キッチンセキザワ」として奇跡の復活を果たしたのです。
移転先に選ばれた鳩山町は、都心からは電車とバスを乗り継いで1時間半以上を要する長閑なベッドタウンでした。なぜこの地を選んだのかといえば、マスター自身の親族や縁故に関わる土地であり、高齢期に入ったマスターが自身のペースで無理なく厨房に立ち続けられる環境を整えるためでした。
東長崎時代の年季の入った佇まいから一転、鳩山町の店舗は白と木目を基調としたカフェ風の清潔感ある外観へと生まれ変わりました。それでも暖簾をくぐれば、迎えてくれるのはあの穏やかなマスターの笑顔そのものでした。メニューには東長崎時代を彷彿とさせる定食類が並び、都内から遥々車を走らせて訪れる『孤独のグルメ』フリークと、新天地でできた地元の常連客が入り混じる温かな空間が再構築されたのです。
しかし、移転から約4年が経過した2018年秋(9月末〜10月頃)、キッチンセキザワは静かにそのシャッターを下ろしました。閉店理由はマスターの高齢化と体調面への配慮です。朝の仕込みから夜の営業、買い出しに至るまで、個人経営の飲食店をワンオペレーションで維持し続ける重労働は、70代を迎えた店主の身体に少なからぬ負担をかけていました。「動けるうちに、元気な姿のまま店を終えたい」という、料理人としての誇りと引き際の美学に基づく幕引きでした。