広島平和記念資料館に寄贈・展示されている「人影の石(旧住友銀行広島支店の石段)」は、原爆の恐ろしさを象徴する資料として世界的に知られています。爆心地からわずか260メートルの距離にあったこの場所では、開店を待つために石段に腰掛けていた人物の姿が、黒い影のように残されました。
この現象について「人間の脂や炭化した体が石に焼き付いた」と誤解されることがありますが、実際の形成メカニズムは「周囲の白化と人体の遮蔽効果」によるものです。
原爆の炸裂時、石段に使われていた花崗岩は3,000度を超える猛烈な熱線を浴びました。花崗岩に含まれる石英や長石などの鉱物が熱分解・膨張を起こして表面が剥離し、全体が白っぽく変色(脱色・風化)しました。しかし、人が座っていた部分だけは人体が熱線を遮断したため、元の石肌のまま変色せずに残ったのです。
写真フィルムの露光と同じ原理であり、「影が焼き付いた」のではなく「影以外の周囲が強烈な熱で焼き払われて変色した」というのが物理的な事実です。石段に座っていたと見られる人物は、熱線を浴びて致命傷を負った後、爆風で吹き飛ばされたか、あるいは自力で逃れる途中で力尽きたと考えられています。