ネット上の裁縫解説で初心者が最も混乱しやすいのが、「コの字縫い」と「まつり縫い(ブラインドステッチ)」のどちらを使うべきかという判断基準です。結論から述べると、両者は「布の合わさり方」と「縫い合わせる目的」が根本から異なります。
都内のお直し工房で20年以上のキャリアを持つ仕立て職人は、「二つの違いを理解していないと、せっかく縫っても布が引きつれたり、数回着用しただけですぐに糸が切れたりする」と指摘します。それぞれの構造的な役割は以下の通りです。
まず「コの字縫い(英語圏ではラダーステッチ)」は、折りたたんだ二枚の布の端同士を突き合わせ、裂け目や開口部を完全に閉じるための技法です。針を布の折り目の内側に交互に通し、最後に糸をキュッと引くことで、縫い糸が両側の布の隙間に完全に吸い込まれます。表にも裏にも一切縫い目が出ないため、裏側に手が入らないぬいぐるみの中綿詰め口、クッションのほつれ直し、ジャケットやシャツの脇線が裂けた際の応急処置に最適です。
一方の「まつり縫い」は、折り返した布端を土台となる表生地に留め付けるための技法です。スラックスやスカートの裾上げ、袖口の始末など、布が平面的に重なっている場所で使用します。まつり縫いの本質は、表生地の織り糸をわずか1〜2本だけ極小にすくい、裏側で斜めに糸を渡すことで、表側に針目をほぼ出さずに固定する点にあります。
つまり、「裂けた穴や隙間を塞ぎたいならコの字縫い」、「折り返した裾が落ちてこないよう留めたいならまつり縫い」という明確な境界線を引くことが、失敗を防ぐ第一歩となります。