マハカム川に生息するイリエワニ(Saltwater crocodile)は、地球上で最も噛む力が強い捕食者の一つとして知られています。その怪力を持つ顎でくわえられながら、なぜ少年の遺体には致命的な損壊が生じなかったのでしょうか。
ワニの吻部(口元)には、水圧の変化や微細な振動を感知するためのドーム状感覚器官(ISO/DPR)と呼ばれる極めて繊細な神経受容器が無数に配置されています。メスのワニが孵化したばかりの柔らかい我が子を口に含んで水辺まで運ぶ際、卵の殻を割らないほどの繊細な力加減をコントロールできるのはこの器官のおかげです。
今回の個体がどのような動機で少年を運んだかについては諸説あるものの、少なくとも過度な捕食圧力を加えることなく、口先や背中の凹凸に引っ掛ける形で穏やかに水面を移動させた事実は、ワニの高度な身体制御能力を物語る貴重な実例として爬虫類学者たちの間でも注目されています。