野外観察の現場では、前述した鑑別ルールをことごとく覆す「例外的な昆虫たち」が数多く存在し、愛好家や子供たちを混乱させています。
昆虫館の学芸員や野外調査員の証言によると、来館者から持ち込まれる「珍しい蝶を見つけた」という問い合わせの約3割は、昼行性の美しい蛾であることが判明しています。人間が勝手に引いた境界線をあざ笑うかのような代表例を検証してみましょう。
【蝶以上に美しい蛾たちの世界】
マダガスカル島に生息するニシキオオツバメガは、「世界で最も美しい昆虫」と称される昼行性のガです。メタリックグリーンや鮮烈なオレンジ、ゴールドに輝く幾何学模様の羽を持ち、昼間に優雅に乱舞します。その構造色による輝きは、いかなる極楽蝶をも凌駕する美しさです。また、日本国内でも初夏に現れるオオミズアオは、淡いヒスイ色の長大な羽を持ち、学名に月の女神アルテミス(Artemis)の名を冠されるほどの幻想的な気品を放ちます。
【蛾にしか見えない蝶たちの生態】
一方で、チョウの側にも「蛾の特徴」を色濃く残す種が存在します。身近な草むらに生息するイチモンジセセリなどのセセリチョウ科は、胴体が丸々と太く毛深く、羽を半開きにして素早く直線的に飛びます。触角の先がカギ状に曲がっている点を除けば、一般的な蛾のイメージそのものです。さらに、山地に生息するイカリモンガという蛾は、昼間に活動するだけでなく、チョウのように羽を完全に立てて閉じて静止するため、初見の観察者がチョウと誤認する代表格となっています。