広く使われる言葉であるからこそ、ネット上には事実と異なる誤解や都市伝説めいた解釈も散見されます。ここで代表的な2つの誤解を正しておきましょう。
もっとも多いのが、「織田信長や徳川家康などの戦国武将が実際に手紙や辞世の句で使った言葉である」という誤信です。武将たちが書状で用いた一人称は「某(それがし)」や官職名、あるいは自身の名前であることが多く、「余」を日常的に発語していた史料的根拠は極めて乏しいのが実情です。大河ドラマや歴史小説で武将が「余」と語るのは、後世の脚本家や作家がキャラクターの威厳をわかりやすく演出するために付与したフィクションの技法に過ぎません。
もう一つの誤解は、「殿様の一人称だから、目下の人間に対していつでも無条件に使ってよい」という認識です。「余」は本来、対等な関係や上位の立場から公然と発する極めて特権的な一人称です。現代のビジネスチャットや公式の場でふざけて口にすれば、単なる尊大で傲慢な人物と受け取られかねません。あくまで気心の知れた友人関係や、お約束の通じるオタクコミュニティ限定のプロレス的コミュニケーションであることを忘れてはなりません。