いまや世界最大のVFX工房として君臨するインダストリアル・ライト&マジック(ILM)。だが1970年代中盤、カリフォルニア州ヴァンナイズの埃っぽい倉庫に集められた若者たちにとっては、毎日の作業そのものが無謀な賭けだった。予算は逼迫し、既存の撮影機材では思い描くスピード感が出せない。締め切りが刻一刻と迫るなかで、彼らはカメラ自体を自分たちの手で作り変える決断を下す。
そこで開発されたのが、コンピューター制御でカメラの動きを正確にトレースするモーション・コントロール・カメラ「ダイクストラフレックス」だ。模型の宇宙船を何度も同じ軌道で撮影し、フィルムを多重露光していく。現代のCGならキーボードひとつで完結する作業に、彼らは文字通り心血を注ぎ込んだ。ミニチュアモデルにわざと傷をつけ、油煙の汚れを描き込む「ウェザリング」の手法も、彼らが持ち込んだ革命だ。綺麗で清潔な未来像を拒絶し、生活臭と歴史を感じさせる泥臭い質感を徹底的に追求した姿勢こそが、映画産業全体の技術基準を一気に半世紀先へと押し進める原動力となった。