セルフサービスのカフェチェーンが駅前を席巻する現代において、椿屋珈琲が提示する価格設定は際立っています。しかし、その内実を細かく分解していくと、単なる「ブランド料」ではなく、極めて合理的かつ贅沢なコスト配分が見えてきます。椿屋珈琲の値段が高い理由は、主に以下の4つの要素に集約されます。
第1に、サイフォン珈琲に投じられる豆の分量と技術です。椿屋珈琲では、注文を受けてから熟練のスタッフが1杯ずつサイフォンで抽出を行います。通常のドリップ珈琲と比較して、同店では約1.5倍から2倍近くの高級珈琲豆を贅沢に使用して濃厚なコクと香りを引き出しています。抽出された珈琲は、デンマークの名窯「ロイヤルコペンハーゲン」や有田焼などの高級磁器カップに注がれてテーブルまで運ばれます。器ひとつの鑑賞価値を含めた体験が設計されているのです。
第2に、徹底した空間価値とゆとりある座席設計です。大正時代の上流階級の邸宅を思わせるインテリアには、本物の無垢材やアンティーク調の家具が惜しみなく使われています。席と席の間隔は広く保たれ、隣席の会話が気になりにくいプライベート感を実現しています。セルフ式カフェが「回転率」で利益を出すビジネスモデルであるのに対し、運営元である東和フードサービスは「客席滞在の心地よさ」に価値を置いています。何時間過ごしても急かされない時間的価値が、1杯の価格に含まれているわけです。
第3に、主要駅直結・徒歩1〜2分圏内という超一等地の立地コストです。銀座、新宿、池袋、六本木、横浜といった首都圏の超高額テナントに大型店舗を構えており、アクセス利便性と静寂のオアシスを両立させるための固定費が反映されています。
第4に、ホスピタリティあふれるフルサービスです。レトロモダンなエプロンドレスを纏ったスタッフによる席案内、丁寧なオーダーテイク、卓上での注ぎ分けなど、徹底した対面接客が行われます。人件費を削るセルフ化の対極を行くからこそ、特別なもてなしを受けられる満足感が担保されています。