街の古い路地裏で見かける純喫茶の看板や、大衆食堂の品書きに記された文字には、最新のデジタルフォントにはない独特の味わいが宿っています。あの文字の正体は、昭和中期から後期にかけて看板職人が手作業で書き上げた「描き文字」や、写植(写真植字)黎明期に生み出された初期のディスプレイ書体です。
当時の職人たちは、限られた看板スペースの中で通行人の目を引きつけるため、極端に太いウエイトを持たせたり、文字のハネや払いを大胆に角丸にデフォルメしたりする工夫を凝らしました。この手法から生まれたのが、現在昭和看板文字フォントや喫茶店フォントと呼ばれるスタイルの原型です。
印刷技術の制約から生まれた「インクのにじみ(スミ溜まり)」や、活字の角が摩耗したような柔らかさ、縦横比率のわずかなアンバランスさが、見る者に安心感と「人間味」を与えます。洗練されすぎた幾何学的デザインとは対極にあるこれらの特徴こそが、デジタルネイティブ世代にとって未知の新鮮さ=エモい日本語フォントとして熱狂的に支持される最大の理由です。