伊之助の素顔がここまで際立って美しい理由は、単なるギャグやキャラクターのインパクト狙いにとどまりません。物語の深層において、実の母親である嘴平琴葉(ことは)の遺伝という重厚な伏線が張られていました。
公式ファンブックや作中の回想で明かされた通り、母・琴葉は非常に端麗な容姿を持った女性でした。しかし、夫や姑からの酷いDV被害に遭い、幼い伊之助を連れてカルト宗教「万世極楽教」の寺院へと逃げ込みます。その教祖こそが、十二鬼月・上弦の弐である鬼の童磨(どうま)でした。
童磨は琴葉のあまりの美しさと心の純粋さを気に入り、喰い殺さずに手元に置いて寿限無の歌を歌わせていました。ところが、童磨が信者を喰らう現場を目撃してしまった琴葉は寺院から脱出。崖に追い詰められた末、我が子だけでも生き延びさせようと伊之助を谷底の川へ落とします。その後、琴葉は童磨の手によって命を落とすという痛烈な結末を迎えました。
無限城での戦いにおいて、童磨は対峙した伊之助の顔を見て即座に「琴葉とそっくりだ」と見抜いています。伊之助の端正な美貌は、命懸けで自分を救い出してくれた母の形見そのものであり、物語の根底にある家族愛と因縁を象徴する重要な記号となっているのです。