心理学における人間不信とは、過去の対人関係で受けた深い傷をきっかけに、「他者は潜在的に自分を裏切り、利用し、危害を加える存在である」という認知バイアスが固定化した状態を指します。他者を嫌悪しているというよりも、自らの自我が崩壊するのを防ぐために、他者との情緒的な接触を遮断する「過剰な防衛機制」が働いていると解釈するのが臨床的にも妥当です。
精神医学や心理療法の現場で頻繁に混同されるのが「対人恐怖症(社交不安症)」との違いです。両者は他者を避ける行動面では似通っていますが、抱いている中核的な恐怖の対象が根本から異なります。対人恐怖症は「他者から自分がどう見られているか」「恥をかいて拒絶されるのではないか」という自己評価への不安が主軸です。一方で人間不信は、「相手が自分を騙そうとしているのではないか」「いつ裏切られるかわからない」という他者の内面や動機に対する根源的な疑念に基づいています。
心理学者のジェフリー・ヤングが提唱したスキーマ療法の観点から見ると、人間不信の根底には「不信・虐待スキーマ」が形成されています。幼少期の過酷な養育環境や、思春期以降の強烈ないじめ、搾取的な人間関係によって「人はいつか自分を傷つける」という認知の枠組みが脳内に強固に刷り込まれてしまうのです。