幼少期の寺島しのぶにとって、楽屋は格好の遊び場であり、歌舞伎のセリフや見得は自然と身につく呼吸のようなものだった。弟の尾上菊之助(現・八代目菊五郎)と共に歌舞伎の稽古に励み、誰よりも舞台を愛していた少女時代。だが、年齢を重ねるにつれ突きつけられたのは「どれほど情熱があっても、女は歌舞伎役者になれない」という残酷な現実だった。
その理不尽な壁に直面したとき、彼女が選んだのは逃避ではなく、別の場所で自らの表現を爆発させることだった。舞台や映画の現場で魅せる圧倒的な存在感、役に身を削るような鬼気迫る演技は、伝統芸能の舞台に立てなかった無念を原動力へと昇華させた結果にほかならない。「音羽屋の娘」というレッテルを跳ね返し、一人の独立した表現者として頂点に登り詰めた彼女の足跡は、多くの人々に勇気を与え続けている。