田むら銀かつ亭の豆腐かつ煮を真に理解するためには、その命ともいえる豆腐を生み出し続けている「箱根 銀豆腐」の存在を避けて通ることはできません。大正初期に創業し、百有余年の歴史を刻むこの老舗工房は、銀かつ亭のすぐ斜め向かいに静かに佇んでいます。
ここで旅行者が必ず味わうべき名物が、店頭で販売されている「しゃくり豆腐」です。大きな木桶に張られた湯の中から、注文を受けてから大きな杓子(しゃくし)で手際よくすくい上げ、小さな器に盛られて供されます。ほんのりと温かい出来立ての豆腐に卓上の醤油をわずか数滴垂らし、木のスプーンで口に運んだ瞬間に広がるのは、大豆特有のふわりとした香気と、まるで良質な生クリームのように滑らかな舌触りです。
銀豆腐の営業開始は朝7時00分頃からと非常に早く、定休日は木曜日です。ただし、職人がその日の分として仕込んだ豆腐がなくなり次第、午後早い段階で暖簾が仕舞われてしまうため注意が必要です。銀かつ亭の整理券を午前中に発券した後、そのまま銀豆腐の引き戸を開けてしゃくり豆腐を味わうのが、現地を知り尽くした食通のルーティンとなっています。
また、旅程の都合で銀かつ亭の店内でゆっくり食事をする時間が確保できない場合は、本店のすぐ近くにあるテイクアウト専門カウンター「銀かつ工房」の活用が極めて有効です。名物の豆腐かつを特製ソースとともにパンに挟んだ「かつ銀サンド」や、持ち帰り用の「豆腐かつ煮」が用意されており、これらを購入して箱根登山鉄道の車窓を眺めながら、あるいは宿泊先の温泉旅館で味わうというスマートな選択肢も用意されています。