ここからは物語の核心、多くの読者を震撼させた結末のネタバレに踏み込みます。未読の方は十分にご注意ください。
終盤、神崎は佐伯刑事とともに、人間師の潜伏先とされる山間部の廃別荘を突き止めます。そこにいたのは、かつて失踪事件の被害者遺族として神崎の取材に応じていたはずの青年でした。青年は完全に虚脱しており、「先生の指示に従っただけだ」と繰り返すばかり。神崎は、ついに人間師の正体を精神科医の橘だと確信します。橘こそが、カウンセリングという密室空間を利用して人々の精神を意のままに操っていた張本人だと詰め寄るのです。
しかし、そこで明かされる結末の真相は、読者の予想を根底から粉砕するものでした。
橘は冷ややかに微笑み、神崎に対して決定的な録音データを突きつけます。そこに記録されていたのは、失踪した家族たちに指示を出し、財産を処分させ、互いを責め苛むよう指示していた「神崎自身の声」でした。
真実の人間師は、主人公の神崎 徹その人だったのです。
神崎は過去に自身が犯した凄惨な事件の記憶に耐えきれず、解離性同一性障害(二重人格)を発症。「冷酷に他人を操る人間師」としての人格と、「正義感に燃えて怪物を追うルポライター」としての人格に分裂していました。神崎が追っていた足跡は、すべて彼自身が過去に仕掛けた罠の痕跡に過ぎず、取材協力者たちが神崎と接触した後に精神を病んでいったのも、神崎が無意識のうちに彼らを心理的に追い詰めていたためでした。
タイトルの『嗤う人間師』とは、正義の記者を演じながら自らの掌の上で踊っていた愚かなもう一つの人格を、内面から嘲笑していた怪物の姿を指していたのです。