介護経験が浅い家族が陥る最大の過ちが、「傷ができたらまず消毒して乾かす」という昭和の救急処置観です。医療現場において、床ずれに消毒液を使ってはいけない真相は完全に周知されています。ポビドンヨード(イソジン等)や逆性石けんなどの消毒剤は、侵入した細菌だけでなく、傷を治そうと懸命に働く肉芽組織や遊走してきた白血球、新生血管を無差別に破壊します。
日本褥瘡学会の治療指針でも、感染していない褥瘡創面への日常的な消毒液使用は明確に否定されています。消毒液によって細胞障害が起きると組織の再生が著しく遅延し、結果として慢性潰瘍化を招く結果となります。必要な処置は消毒ではなく、微温湯(ぬるま湯)や生理食塩水を用いた十分な水圧による「物理的洗浄」です。泡立てた低刺激性石けんで周囲の皮脂や汚れを優しく浮かせ、創面には残らないよう水道水で十分に洗い流すアプローチが世界の創傷治療における標準プロトコルです。
ガーゼを傷口に直接当てる旧来の手法も重大な弊害をもたらします。浸出液がガーゼに吸い取られて乾燥すると、再生中の上皮が繊維に食い込みます。交換のたびに新しくできた皮膚組織を無理やり剥ぎ取ることになり、激痛と創傷悪化を繰り返す悪循環に陥ります。