本作の歌詞において、リスナーに最も鮮烈なインパクトを与えるのがサビ直前の「カート、コートニー」という象徴的な人名です。この元ネタとなったのは、米国の伝説的グランジ・ロックバンド「ニルヴァーナ(Nirvana)」のフロントマンであるカート・コバーンと、その妻でありバンド「ホール(Hole)」のフロントウーマンだったコートニー・ラブの2人です。
1990年代初頭のカルチャーを象徴した彼らは、互いを激しく求め合いながらも薬物依存や精神的混乱に苛まれ、1994年にカートが27歳で自ら命を絶つという凄惨な結末を迎えました。90年代のロックシーンをリアルタイムで体感していた当時の椎名林檎にとって、彼らは「激情的な愛の理想形」であると同時に、「死によってしか完結しなかった悲劇のカップル」の象徴だったのです。
「あなたがもし突然いなくなってしまったら」「愛し合っているのに、いつか破滅が訪れるのではないか」という予感。相手が音楽活動や自己表現の世界へ深く潜っていくほど、手の届かない場所へ消えてしまうのではないかという焦燥感が、この短いフレーズに凝縮されています。単なる洋楽へのオマージュにとどまらず、最悪の別離を想起させることで、目の前の「今」を必死に繋ぎ止めようとする切迫した心理が浮き彫りになります。