では、私たちは苔の魅力を諦めるしかないのだろうか。その答えのヒントは、皮肉にも長い歴史を生き抜いてきた名刹の構造にある。「苔寺」として世界的に名高い西芳寺も、往古から苔一色だったわけではない。洪水や荒廃を経て自然発生的に苔が定着し、樹木の木漏れ日と地形の窪みが絶妙なマイクロクライメイト(微気候)を形成した結果、あの奇跡的な風景が定着した。
また、東福寺本坊庭園の市松模様に見られるように、石材や砂利と組み合わせる枯山水の技法は、単なるデザイン上の演出にとどまらない。敷地全体を苔で埋め尽くすのではなく、石や舗装材で区画を区切ることにより、雨水の排水ルートを確保し、万が一の病気蔓延をブロックする防波堤の役割を果たしている。全面積を緑化しようとせず、石や白砂の余白を大胆に取り入れることこそ、持続可能な和モダン空間を成立させる知恵である。